6年ぶり金農旋風を 母校に熱視線 捕手→秋田県職員の菊地さん

2024年8月6日 日本農業新聞

秋田県職員として農地の整備などに携わる菊地さん(県提供)
秋田県職員として農地の整備などに携わる菊地さん(県提供)
 
 全国高校野球選手権大会(夏の甲子園)に出場する金足農業高校(秋田)が9日、西日本短大付属高校(福岡)との初陣を迎える。金農に熱視戦を送るのは6年前の“金農旋風”の立役者、吉田輝星投手(オリックス)の女房役としてチームを支えた当時の捕手、菊地亮太さん(23)。金農で習得した測量技術を生かし、現在は秋田県職員として、農地の整備や農業水利施設の補修などに携わる。

菊地さんは6年前の金農旋風の渦中、痛みと闘っていた。吉田輝星投手が地方大会と夏の甲子園含め投げた計1517球を1人で受け続けていたからだ。「毎試合、手が腫れあがっていた。特に左手人差し指の付け根がひび割れ、我慢との闘いだった」と振り返る。

それを支えたのが、大阪の宿舎での食事だった。持ち込んだ秋田県産米「あきたこまち」を毎日食べ試合に臨んでいた。「決勝まで戦えたのは、食べ慣れた『あきたこまち』のおかげ」と強調する。

菊地さんは今夏、仕事の合間を見て母校をチェック。決勝は球場まで足を運んだ。金農の強さは、エース吉田大輝投手(2年)の存在だけではない。「以前に比べ打てるようになった。走者が出塁するとバントで進めるだけでなく、ヒッティングができる。積極性が出てきた」と分析。「初戦はいい緊張感を持って戦ってほしい」とエールを送る。

秋田県は2年連続で大規模水害が発生、甚大な農業被害に遭っている。菊地さんは、被害状況を確認する仕事にも従事する。それだけに「金農が甲子園で活躍することで、被害に遭った農家に勇気や希望を与えられると思う。できることなら、僕たちがかなえられなかった全国制覇を成し遂げてほしい」と、金農ナインに思いを託す。

吉田輝星投手と共に活躍した6年前の菊地さん(左)(兵庫県西宮市で)

 

甲子園出場決めた金足農 エースの祖父、農家としての思い 旋風再び吹け

2024年7月22日 日本農業新聞

孫の活躍に喜ぶ梨農家の吉田理正さん(秋田県潟上市で)
孫の活躍に喜ぶ梨農家の吉田理正さん(秋田県潟上市で)
 
 「エースとして死ぬ気で投げなきゃいけない。チームを勝たせたい思いは誰にも負けない」。決死の覚悟でマウンドに上がり続けた金足農業高校の吉田大輝選手(2年)は、第106回全国高校野球選手権大会(夏の甲子園)を決める最後の打者を三振で仕留めると、勢いよく人差し指を立て、歓喜の輪の中で喜びを爆発させた。

観客席で手をたたき目頭を熱くしたのは、秋田県潟上市の吉田理正さん(76)。吉田大輝投手の祖父だ。JA秋田みなみ(現JA秋田なまはげ)に36年間勤め、退職後に梨農家となり、約50アールの園地で「幸水」「かほり」などを手がける。

思い出すのは、孫を支える日々だ。両親が共働きの吉田大輝選手のために、トスバッティングを手伝い、寂しい思いをさせまいと自宅に呼び寄せ、自慢の梨やリンゴを振る舞った。今は高齢のため練習相手はできないが、孫の負担を和らげようと、最寄り駅まで車で送迎するなど、常に近くで寄り添い続けた。

昨年は梨が不作だった。春先の低温で果樹に被害が出る凍霜害が園地を直撃、約9割の収穫を断念した。その苦しさを紛らわせてくれたのが、孫の活躍だった。今大会期間中は、高品質な梨を作る上で重要な摘果作業などに追われながらも、その合間を縫って毎試合球場に駆け付けた。

2018年に“金農旋風”を巻き起こした一人で現在はオリックスの吉田輝星投手(23)に続く孫の甲子園出場に「ここまでやるとは思わなかった。農作業やめてでも甲子園に行かにゃ駄目だ」と瞳を輝かせた。

力投した吉田大輝投手(秋田市で)

決勝で攻守に光った高橋佳佑主将(3年)は、6年前の金農旋風の立役者の一人で同校の非常勤講師と野球部コーチを兼任する高橋佑輔さん(23)が兄だ。

これまでの道のりは平たんではなかった。1年時には、部内で上級生によるいじめが明らかとなり、3カ月間対外試合禁止の処分が下ったこともあった。

どん底から、はい上がっての悲願だけに「甲子園で勝利し、地方にある農業高校の野球部でも『頑張ればできるんだ』ということを、全国の農高生に証明したい」と力を込める。

6年ぶりに甲子園出場を決めた金農ナイン(秋田市で)

<メモ> 第106回全国高校野球選手権秋田大会は21日、秋田市で決勝を行い、金足農業高校が6-5で秋田商業高校を破り、6年ぶり7度目の甲子園出場を決めた。前回出場した2018年には、吉田大輝投手の兄で現オリックスの吉田輝星投手を擁し、準優勝。球史に残る活躍が、高校野球ファン以外にも共感を呼び“金農旋風”と称し、社会現象となった。

(前田大介)